製薬業界向けイベント登壇レポート「プロンプトエンジニアリングでメディカルプロモーションを加速する~対話型AIの活用ノウハウ~」
2024年4月17〜19日に開催された製薬&ヘルスケア業界向けイベント『ファーマIT&デジタルヘルス エキスポ』にて、「プロンプトエンジニアリングでメディカルプロモーションを加速する~対話型AIの活用ノウハウ~」と題して、株式会社博報堂メディカル ビジネス開発室ディレクター 八角潤一がセミナーに登壇いたしました。当日は事前予約の100席が満席で、立ち見の方も多く見られました。このことから、当テーマへの関心の高さが伺えます。その内容をレポートいたします。
■目次
弊社は、数年前から大規模言語モデル(以下、LLM)の利用方法とリスク対策を模索し、社員教育に力を入れてきました。またLLMの支援でプログラミングを行う部門を設け、社内用の独自AIアプリケーションの開発と実装を進めてきました。
LLMについてよくあるお悩み
弊社は製薬業界内外の様々な方にインタビューを実施し、ChatGPTをはじめとするLLMに関する図のようなお悩みをうかがいました。
これらのお悩みを解決していただくため、今回のセミナーでは3つのメッセージを提示しました。
3つのメッセージ
1.LLM/ChatGPTをうまく使うには、基本を知ることが大切
2.業務に役立つユースケースを知る
3.LLMでDXを推進する
LLM/ChatGPTをうまく使うには、基本を知ることが大切
LLMが文章生成に関連してできることには下記のようなものがあります。
・企画アイデアの創出
・メルマガタイトルの創出
・メール本文の作成
・文書の解説・編集・要約
・レポート作成
・テスト問題作成
・プログラミングコードの作成
参考:教員向けChat GPT講座~基礎から応用まで~(東京大学 大学院工学系研究科 准教授 吉田塁氏)改変
LLMの文章生成の仕組みはシンプルです。単純に前の文章や単語に続いて、確率的に続きやすいものを出力します。例えば、LLMに「雨が」と入力すると、モデルの確率分布に基づいて「降っていますね」と機械的に続きの文章が出力されます。LLMは自然な文章を大量に生成することが可能なため、様々な業務での利用が期待できます。
LLMの限界
一方でLLMにはいくつかの限界が存在します。具体的には、記号接地問題、フレーム問題、ハルシネーション、自己回帰的性質、データカットオフなどの問題が指摘されています。弊社が行ったインタビュー調査によると、これらの中でも特にハルシネーションが業務上の問題点として頻繁に挙げられました。ハルシネーションは、LLMが不正確あるいは不適切な情報を、あたかも事実のように出力し、人間を惑わせる現象です(McKenna N, et al. 2023. arXiv:2305.14552v2 [cs.CL])。
弊社ではこのハルシネーションのリスクを軽減するために図の業務プロセスを採用しています。このプロセスでは、命令者である人間が適切なプロンプト(命令文)を入力し、出力結果はメディカルの専門知識を持つ専門人材がチェックして検証します。そして出力結果を鵜呑みにして使用しないように、社内教育を徹底しています。
業務に役立つユースケースを知る
LLMを活用する上で重要なノウハウが「プロンプトエンジニアリング」です(Prompt Engineering Guide)。このプロンプトエンジニアリングを使いこなすための原則として、人工知能や計算機科学の分野でご高名なスタンフォード大学のAndrew Ng氏は「明確で具体的な指示を書く」、「モデルに考える時間を与える」ことを提唱しています。これらの原則をもとに「試行錯誤すること」が何より重要とされています。
Few-shot prompting
プロンプトには様々な案があり、その1つ、Few-shot promptingは、LLMに対し、いくつかの事前情報を与えてから結果を出力する方法です。
本セミナーでは、Few-shot promptingを使って、図に示すような架空の病態/薬剤による「医師の興味を惹くタイトル」を作成する流れを、実際のプロンプトを用いて詳しく紹介しました。
Text Value Score
LLMで大量の案を出力できる一方で、それらをどのような観点で評価するかという課題が生じます。この課題に対処するため、弊社では独自アルゴリズムで出力結果をスコア化して評価する[Text Value Score]という方法を試用しています。評価が高いものから順に人間が選択し、編集を行うことで、スムーズに次のステップに進めることができます。
LLMでDXを推進する
弊社ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の過程で考案した課題解決アイデアを検証するためにLLMを活用しています。従来、PoC(プルーフ・オブ・コンセプト)やプロトタイピングは外部委託が必要でしたが、LLMをコーディングに活用することで、これらの一部を内製化できるようになりました。この変化により、DXの速度が大幅に向上しました。
独自AIアプリケーションにより作業スピードが300倍以上にアップ
弊社ではLLMを活用したコーディングにより、独自AIアプリケーションを開発・拡充することで業務の改善、品質の向上に役立ています。
制作業務の面では、大量のPDFの"突き合わせ"をAIに行わせることで作業スピードが300倍以上にアップし、従来の作業時間の99.7%を削減しました。
また、メディカルに関連する誤字のみを数分で見つける独自AIアプリケーションにより、事前に入稿事故やインシデントを可能な限り防いでいます。
2023年度はAIのサポートで、弊社クリエーターの単純作業が削減されました。そのため2024年度からは、クリエーターが企画立案や戦略立案などのメディカルクリエイティブ業務へ、例年以上に注力できるようになります。これにより、弊社の顧客課題解決能力がさらに強化されることを期待しています。
弊社は博報堂グループで保持する生活者データや、医療者のインサイトデータである医生活者データなどの独自データを保有しており、これらのデータと独自AIアプリケーションを、弊社内のクリエーターが活用し、企画案の立案や実行に役立てています。さらにその利用状況に基づいて独自AIアプリケーションを改修し続けることで、質の高いアウトプットを継続的に提供してまいります。
今回紹介したLLMについてよくあるお悩みの解決案として、弊社では製薬会社、医療機器メーカー様向けに下記のサービスをご提案しています。
プロンプトエンジニアリング社内セミナー
プロンプトエンジニアリング・ワークショップ
DXコンサルティング&PoC支援